after glow
編集後記02
M島を訪ねたのは、昨年12月のことでした。とても辛い取材でした。 島の人達に、生きる覇気のようなものがあまり感じられませんでした。 無理もありません。ほとんどの人が年金暮らし。新しい作物を育てようにも、車が通れる道がないので作業が思うようにできず、みなあきらめています。20年後には無人島になるんじゃないか。そんなふうにも言われていました。 食用菊が再び生きる力を島に与えてくれる----そう願ってやみませんが、道は相当に険しいようです。 取材が終わってフェリーを待つ間、Hさんの家に立ち寄って挨拶をしました。彼は、数時間前に会った僕のことを覚えていませんでした。 東京に戻ってから、農協のTさんに電話をしたら、1月から異動で別の島に行くことになった、と言っていました。 花の島の新たな花が、今年いくつその蕾を開くのか、僕にはわかりません。 急な坂道で何度も転びズボンを1本ダメにして、夜は山道で迷って遭難しかけて、こうしたこと全てが本来ならとても楽しいはずの旅なのですが、何だか今回ばかりは陰鬱な気持ちでした。 雑誌ではこんなことは書きません。嘘でも明るい未来を匂わせるでしょう。新聞では、問題ばかりを他人事に誇張するでしょう。 本誌はそのいずれも取りません。悲しいことは悲しい。でも、そこに生きる人がいる。その姿を、あくまで主観的に(この世界に客観的な思考などおよそ存在しえないのだから)表現していきます。 なお、このM島のお話は僕が『某処某人』というフォトエッセイで書いたものに加筆修正をしました。前作をご存じの方には重複する点がありますが、新しい読者の方々にもお読みいただきたく、ここに再録しました。ご了承下さい。 (2003年2月1日発行「TALEMARKET vol.2」編集後記より) |
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