after glow
編集後記08










 大雨、地震、台風と、今年の春から夏にかけては、不幸にも天災の当たり年となってしまいました。各地で被害に合われた方々には、心からお見舞い申し上げます。
 ところで天災といえば、以前、北海道の有珠山噴火を取材に行った時のこと。
 自衛隊と警官が厳重に立入禁止区域を設け、取材陣はおろか住民すらも締め出しており、1か月近くもの間、農家の人達は家に帰れずにいました。もちろん安全確保のためなのですが、その頃は火山も小康状態で、専門家の意見でも、山の東側の地区については一時帰宅して大丈夫、とのことでした。が、お役人達はあくまでも一律主義に固執し、結果として農家の人達は畑や畜舎をほんのちょっと見回ることすらできず、避難所で歯ぎしりしていました。
 そんな中、僕はある畜産農家の人と親しくなり、警官隊の目を盗んで小さな農道を通り、噴火口に近い牧場に行くことができました。牛達の背後で噴き上がる噴煙を撮影していると、突然どこからかマイクの声。
「そこの人、立入禁止区域に入っています! ただちに退出しなさい!」
 僕がいた場所は繁みに隠れていて道路からは死角になっており、見つからないはずでした。辺りを見渡しても、警官の姿はどこにもありません。
 きっと別の場所で誰がが注意されているんだろうなあぐらいに思い、さらに写真を撮っていると、
「おい、出てけっつってんだろう!」
拡 声器を通して、怒鳴り声が降ってきました。見上げると、上空で自衛隊のヘリコプターがホバリングしていました。慌てて機材をしまい、農道を通って国道まで出る間、自衛隊のヘリにずーっと追いかけられていました。
 避難所で畜産農家の人と合流すると、彼が破顔して言いました。
「あんたが自衛隊を引きつけてくれたおかげで、牛を避難させる時間ができたよ。ありがとな!」
それを聞いていた周りの人達が、
「明日はオレんとこでやってくれ」
「午後はうちだ」
 と、囮役のオファーが次々に舞い込んでくる羽目に。馬鹿なことをしたかなあと、ちょっと反省していたのですが、その馬鹿がほんの少しでも役に立ったのならまあいいかと、そんなふうに思いました。
 結局、翌日からは警官のマークが厳しくなってやれなかったんですけど。

(2003年8月1日発行「TALEMARKET vol.8」編集後記より)




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