after glow
編集後記(25)




「あのカネにならない本まだ出してるの?」
 先日、秋山豊寛さんにお会いした時、挨拶抜きでいきなり言われました。秋山さんといえば、ご存じ「宇宙飛行士」にして現在は福島県で「農のある暮らし」を営んでいらっしゃるアノ秋山さんです。山口県のとあるイベント会場でお会いした時のこと。 
 僕はちょっと泣きそうになりました。
 15年前、秋山さんが宇宙に飛び立った時、僕はまだ高校生で、秋山さんは僕が最も尊敬するジャーナリストの一人でした。彼が宇宙から発したある言葉に僕は深く感激し、テレビの前でひとり涙したことを憶えています。
 小学生の頃からの夢だったマスコミの世界の、その片隅に辛うじて潜り込んだ22歳の秋。たまたま雑誌のインタビューで秋山さんにお目にかかる僥倖に恵まれました。緊張して何を訊いたのか覚えていません。 
 その2年後、福井県で開かれたある勉強会で、僕が遺伝子組み換え食品の取材レポートを発表した時、秋山さんは会場にいらして、質疑応答の時に手を挙げ、ものすごく鋭い質問をぶつけてこられました。緊張して何を答えたのか覚えていません。
 恐らくご本人はほとんど認識されていないことと思いますが、実は僕が秋山さんときちんとお話をした機会は、その二度くらいしかないのです。
 それでも、こっそり入手したご自宅の住所に年賀状を送り、季節のお伺いを書き、あまつさえテルマ創刊時には一方的に送りつけたりしていました(嗚呼怖ろしい)。
 何と秋山さんは、覚えていました。「たぶん来ているだろうと思ってさ」と言って、わざわざ土産まで持ってきてくれていました。
 その3ヶ月前。別のイベントで浜美枝さんをゲストにお呼びした時のこと。浜さんは前日に骨折した肋骨を庇いながら、東京から下関まで駆けつけてくれました。怪我のことなど一言もおっしゃらず、激痛に耐えながらそんな素振りは一切見せず、一度も笑顔を絶やさず、予定時間をはるかに越える講演をこなして帰られたその翌日、緊急入院されました。

 僕はとても怠惰な人間だし、弱いし汚いし、何が正しくて何が間違っているのかもよくわかりません。それでも、人として何が「美しい」か、あるいは「格好いい」か----それだけは間違えずにいたいなと、そんな風にいつも思っています。

(2005年9月15日発行『TALEMARKET vol.25』より)




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