after glow
編集後記(26)




 今回は、早いでしょ。
 昨年、テルマの発行が数ヶ月にわたって滞ったのは、ちょうどこの頃でした。いま僕がやっている仕事では、一年で最も忙しくて、心身ともに一番キツイ時期にあたります。
 瑣末なことに忙殺され、まさに今月の『巻頭言』にあるところの、「なにかを考えているようで、じつはなにかを考えさせられている」に過ぎない状態が、続いています。

 そんな中にあって、今年、自分に課したことがひとつあります。それは、クリエイティブワークを絶対に止めないこと。つまりは原稿を書き、写真を撮り、そしてテルマを作り続ける。移動の車中や機内、喫茶店、ホテルの部屋----あらゆる場所で時を選ばず、作業を続けました。
 これは僕にとって、「考えることを止めることはできないが、それでもなにを考えるか選ぶことはできる」(巻頭言)ということの、一つの実践でもあります。ある種のトレーニングというか、リハビリテーションというか……。

 そういえばこの「トレーニング」という言葉を、最近よく使っている気がします。どうでもよい嫌な人達がいて、どうでもよい嫌なことがあって、今の仕事ではそういうことがわりと多くて、淡白な自分がこんなにも人を嫌いになるものかと驚愕し戸惑ったりもするのですが、でも、こんなのもきっと、人生におけるトレーニングみたいなものなのだろうなぁと、そう思います。そう思うよう心がけています。トレーニングに「負荷」は付き物ですから。
 今回、『某処某人』で使ったのは、5年前に撮った写真。自分で見て「こりゃいい写真だ」と自画自賛したくなるような作品が、何点もありました。けれども同時に、今の自分には撮れない写真だと、そうも思いました。
 5年前、僕はたぶん人に対して、今ほど絶望したり幻滅したりすることはなくて、きっと他者に対する勝手な希望にまだ満ち溢れていたのだなと、写真を見ながら思いました。
 いま、僕が撮る写真には、そういえば人がほとんど映っていません。

 先日、浜美枝さんからお手紙をいただきました。ケガの身を押して日本の端っこまでわざわざ足を運んでくださった後、一ヶ月近くも入院されたそうです。退院後はすぐにまた世界各国を飛び回り、ご活躍の様子でした。
 行ったり来たり、前進しているつもりが後退し、時に流され、知らず変節し、一体いつになったら僕は、浜さんのような、あるいはそれに類する人達の、せめてその足下の次元くらいにまで辿り着くことができるのだろうと、忸怩たる思いがします。

(2005年10月20日発行『TALEMARKET vol.26』より)




photo & text by tokosemurayasu
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